top of page

ラクナ脳梗塞とは

ラクナ(lacuna)とはラテン語で「小さい空洞(小さい窪み)」という意味を持ちます。ラクナ梗塞は、脳梗塞患者のうち、30%程度占めており、日本人にとって比較的多い脳梗塞のタイプです。動脈硬化が進み、太い血管が詰まることで発症するアテローム血栓性脳梗塞に対し、太い血管から分岐した細い血管が詰まることで発症する脳梗塞をラクナ梗塞と呼びます。

ここでは、ラクナ梗塞を発症する原因、症状、治療について簡単に解説していきます。

 

◆ラクナ梗塞の原因は?

脳の血管は、『内頚動脈』・『椎骨動脈』という大きな動脈から血液供給を受けています。この血管がいわゆる脳を栄養する血管のスタートであり幹だと思ってください。

 

心臓から続く血管から分岐した『内頸動脈』は,丁度我々の眼の後ろ(奥)あたりで「前大脳動脈」と「中大脳動脈」と呼ばれる2つの動脈に分岐します。

「前大脳動脈」は前頭葉・頭頂葉の内側を、「中大脳動脈」は前頭葉・頭頂葉の外側・側頭葉と呼ばれる部位を栄養しています。

『椎骨動脈』は頭蓋内に入った後に左右が合流して1 本の「脳底動脈」という血管となり、

「脳底動脈」からは、「後下小脳動脈」、「前下小脳動脈」、「上小脳動脈」と呼ばれる血管が分岐します。そして「脳底動脈」は最終的に「後大脳動脈」と呼ばれる血管になり、後頭葉、脳幹、小脳と呼ばれる部位を栄養します。

 

『内頚動脈』と『椎骨動脈』から出た枝は脳の底(脳底部)で、六角形の輪状動脈吻合を形成します。これを「ウィリス動脈輪」と呼びます。

ウィリス動脈輪はその名の通り、輪のような構造になっており、『内頸動脈系』と『椎骨 – 脳底動脈系』がつながって構成されています。

 

 

 

 

 

主要な動脈(中大脳動脈など太い血管)はこのウィリス動脈輪を介してそれぞれ、担当となる脳の部分に血液を供給していくことになります。

これら比較的太い動脈は「皮質枝」と呼ばれます。脳の表面を走行する「皮質枝」とは別に脳の深部に入り込み血液を供給する血管を「穿通枝」と呼びます。「穿通枝」は非常に細いですが、脳の深部にある組織を栄養する非常に大切な役割を担っています。つまり、この「穿通枝」が詰まって脳梗塞を起こしてしまうと、脳の深部領域に梗塞が生じるということが言えます。そして、この「穿通枝」が詰まった場合の脳梗塞をラクナ梗塞と呼びます。

では、この「穿通枝」が詰まる原因は何なのでしょうか?

 

ラクナ梗塞を発症する主な原因は高血圧です。高血圧の状態が長く続くと、血管の壁には常に高い圧力が加わっていることになります。細い血管の壁に長期的に高い圧力が加わることで、傷ついた壁が分厚くなり動脈硬化を引き起こします。動脈硬化を起こした血管はもろくなりやすく、また血栓などにより詰まりやすくなります。そうすることで、「穿通枝」が詰まり、ラクナ梗塞を発症すると考えられています。

ラクナ梗塞は定義としては1.5cm以下の穿通枝領域の小梗塞を指します。1.5cm以上の穿通枝梗塞の場合は、BAD(Branch atheromatous disease)と呼ばれるタイプの脳梗塞が疑われます。また、ラクナ梗塞が1カ所ではなく、多発的に発生した場合は、多発性脳梗塞と呼ばれます。

 


◆ラクナ梗塞の症状、特徴について

細い血管が詰まるため、脳梗塞になる範囲も太い血管が閉塞するタイプのアテローム血栓性脳梗塞や心原性脳梗塞などと比べて狭いことが特徴です。しかし、梗塞が生じた場所によっては、運動麻痺などの症状が生じます。

 

「穿通枝」は視床・尾状核・内包・被殻・淡蒼球と呼ばれる領域に血液供給をしています。

この中で、ラクナ梗塞を生じやすく症状として問題になりやすいのが内包と呼ばれる部分です。

内頚動脈から分岐した前脈略動脈により内包後脚と呼ばれる領域が栄養されています。

内包後脚は運動神経の通り道として、非常に重要な場所です。ここにラクナ梗塞が生じた場合、片側が思うように動かなくなる片麻痺と呼ばれる症状が生じ、日常生活において大変問題となってきます。また、片麻痺だけでなく触られた感覚や自分の手足の位置がわからなくなる感覚障害と呼ばれる症状が出現することもあります。

 

被殻・視床という部位は、脳出血の好発部位ですがラクナ梗塞が生じる部位でもあります。

 

被殻は動きのコントロール(調節)などに関与していると言われています。

視床は様々な神経の中継地点としての役割を担います。特に感覚神経の中継地点としての役割が大きく、視床が損傷されると感覚障害(触れられてもわからない、自分の手足の位置がわからないなど)が現れることがあります。

また、被殻・視床の近くには上述した内包が位置しているため、脳出血などで損傷が大きい場合、片麻痺という症状が出現する可能性は多くあります。しかし、小梗塞であるラクナ梗塞で、被殻・視床に単独で脳梗塞が生じた場合、内包にまで梗塞が及ぶとは考えにくいので、内包後脚が保持されていれば片麻痺症状は出ない可能性が高いと言えます。

 

一般的には、アテローム血栓性脳梗塞のような太い血管が詰まるわけではないので、発症した際に意識の状態が悪くなるほど重篤な状態になることは少ないです。

また、ラクナ梗塞では症状が全く現れず、気づかないがたまたま脳の画像を撮影してみたら小さい梗塞を生じていたということもありえます。これは、無症候性脳梗塞と呼ばれます。

 

 

 

◆ラクナ梗塞の治療法について

基本的には小梗塞なため、点滴や内服薬による内科的治療が行われます。

 

(1)抗血小板療法

血栓が出来にくくなることを目的としたアスピリンなどを投与する抗血小板療法という治療が行われます。

(2)降圧療法

 原因となる高血圧に対し、再発予防も含めて降圧治療推奨されています。

(3)脳保護療法

脳梗塞の範囲がそれ以上拡大することを防ぐ(脳を保護する)目的でエタラボンなどを投与する治療が行われる場合があります。

(4)その他

意識が清明な場合が多いため、早期からの積極的なリハビリテーションも開始されます。特に内包後脚の領域に脳梗塞が生じ、運動麻痺が生じてしまった場合などは、早期からの

リハビリテーションは今後の生活にとって重要となってきます。

症状の程度は梗塞の部位、大きさによりますが、入院の間は血圧など全身状態を管理しながら、廃用症候群(寝ている時間が長いことで、筋力やその他の身体機能が低下するといった一連の症状)の予防や基本動作訓練(立つ、歩くなど)日常生活動作(階段の上り下り、家事動作、入浴など)の練習、外出練習(公共交通機関の利用や買い物など)、言葉の練習(症状が出ていれば)などを行います。

bottom of page